人本|位経済、人本位経済

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その視線の先には常に生身の人とその暮らしがあった。一貫して市場原理主義や規制改革万能論に警鐘を鳴らしたのも、数字だけでは見えてこない人間重視の思想があったからだ▼経済評論家内橋克人さんの原点は12歳で遭った神戸空襲にある。母代わりのような女性や無二の友を亡くした。足の裏だけが白い遺体の山。力ある者と無力な者の圧倒的な格差を前に、どちらによって立つかを心に決めた。戦後65年の夏、古巣の神戸新聞の取材に答えていた▼徹底して現場の声を聞いた。高度成長を支えた無名の技術者を描いた「匠(たくみ)の時代」シリーズもそうだ。記者時代にたたき込まれた「自分の目で確かめろ」などの3訓を晩年も守り続けた▼「共生の大地」(岩波新書)を出したのは新自由主義の台頭著しい1995年。改革の名の下に競争や効率が重視される中、人らしく生きることが可能な「共生経済」を掲げた▼当時は「守旧派」のレッテルを貼られたが、構造改革路線やグローバル化の先にあったのは劣悪な労働環境や格差拡大だった。四半世紀前の警告は今も色あせない▼物質文明への決別を歌ったともされる谷村新司さんの「昴(すばる)」が好きだった。「我も行く心の命ずるままに」。孤独を恐れるなと説いた姿と歌詞が重なる。最後まで市場原理主義信仰の前に立ちはだかった。89歳だった。数字では表すことができない社会の損失である。2021・9・9

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